人間に存在する生まれ持った生の本能は性愛の欲そのもの

サディストとマゾヒストが性愛に満足感を得る仕組みを精神分析

この両者を合わせてC・シュレンク・ノツィングというドイツの学者は、アルゴラグニー(苦痛嗜愛)という言葉を使用(一八九二)している。もちろん、性対象に苦痛を与えることで性的満足を得る純粋なサディスト、あるいは逆に苦痛を与えられることで満足を得る純粋なマゾヒストもいないわけではない。しかし、多くの場合は、一方的なものではなく、サディストであると同時にマゾヒストでもある、サディズム・マゾヒズムという形を取る。サディストとして振る舞いながら、マゾヒズム的な幻想を持ち続けるというような場合もある。

マゾヒストという言葉は、ドイツの作家マゾッホの作品のなかにマゾヒズムの状態がしばしば登場することから、やはりクラフト・エービングによって命名されたものである。このサディズム、マゾヒズムを精神分析的な考え方から説明すると次のようになる。フロイトによると、人間には「リビドー」という生まれ持った生の本能がある。この「生きる本能」であるリビドーに対立する概念として「死の本能」がある。

これはその後、フロイトに師事したフェダーンによって「モルティドー」と名づけられた。一般に生の本能は「エロス」、死の本能は「タナトス」と呼ばれるが、フロイトはこれらの言葉をその著作には用いずに、「エロス」に代わるものとして性欲を基調とした「リビドー」を使っているわけである。人間に生の本能が存在するのは、種族維持の本能として当然のことだが、死の本能というものはなぜ存在するのだろうか。生の本能が、人間が生きるためのエネルギー保存の法則に相当するものであるとすれば、死の本能のほうは、「エントロピー増大の法則」に相当すると言えよう。


さらに意識的なサディストの例としては、次のような事件がある。彼はある高名な芸術家の弟である。上京して暴力団へ入り、女のヒモのような生活をしていた。妻のような女性に寄食していたわけで、覚醒剤の乱用者でもあった。彼にはその女性とは別に情婦がいて、その情婦とはサディストとマゾヒストの関係にあった。

情婦の体のあちこちに針を刺し、傷をつけてはその血をすするというような行為におぼれていた。事件のあった日は、覚醒剤を用いながらそんなセックスプレイをしたのち自宅へ戻り、炬燵にあたりながら妻と一緒にテレビを観ていた。そうしているうちに覚醒剤の作用もあって非常に不気味な感じに襲われ、自分の妻が本当に自分の妻なのかどうかわからなくなってきた。

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